工業簿記は計算が中心となるため、最初は仕訳や勘定科目に戸惑うことが多いです。特に、商業簿記とは異なり、工業簿記には独自の科目が多く、そのために混乱を招くことがあります。
しかし、工業簿記の仕訳や勘定科目をしっかり理解し、特に重要な7つの基本的な勘定科目を覚えることができれば、仕訳がスムーズに行えるようになります。これにより、効率的に学習を進めることができ、工業簿記の全体像もつかみやすくなります。
本記事では、工業簿記でよく使われる勘定科目をわかりやすく解説します。
工業簿記を学ぶポイント
工業簿記の学習を進めると、「工業簿記=原価計算」と考えるようになりますが、実は少し違います。
原価計算は計算中心で進められますが、工業簿記はあくまで「簿記」の一部であり、仕訳を正しく理解することが基礎となります。
また、商業簿記にない工業簿記特有の勘定科目も多いため、最初は混乱するかもしれません。しかし、焦らずに基本的な7つの勘定科目から学び始め、段階的に理解を深めることが大切です。
これらの勘定科目を覚えることで、仕訳の流れが理解しやすくなり、工業簿記全体の習得がスムーズに進めることができます。
各勘定科目の詳細解説
工業簿記には多くの勘定科目が登場しますが、まずは基本的な7つの勘定科目をしっかり理解しておくことが大切です。
これらは工業簿記の仕訳や流れを理解するための基盤となり、効率的に学習を進めるための重要なポイントとなります。以下では、これらの勘定科目を順を追って解説します。
1.材料:製品を作るための素材や部品
「材料」は、製品を作るために使用する原材料や部品を指します。材料は「直接材料」と「間接材料」に分かれます。
- 直接材料:製品の製造に直接的に使用される材料(例:自動車の鉄板、家具の木材)
- 間接材料:製品製造の補助的な材料(例:潤滑油、接着剤、工具)
これらは「資産」として記録され、製品の製造に直接かかるコストとして計上されます。
仕訳例: 企業が原材料800,000円を購入し、支払いは掛けとした場合の仕訳は、以下のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
材料 | 800,000 | 買掛金 | 800,000 |
2.労務費:人件費(働いた人たちへの支払い)
「労務費」は、製品を作るために支払った人件費を指します。これは製造に関わる従業員や作業員への給与や賃金などが含まれます。労務費は「直接労務費」と「間接労務費」に分かれます。
仕訳例: 企業が製品を作る工員に600,000円を現金で支払った場合の仕訳は、以下の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
労務費 | 600,000 | 現金 | 600,000 |
3.経費:材料・労務費以外の製造にかかる費用
「経費」は製造過程において材料費や労務費以外でかかる費用を指します。例えば、工場の光熱費や水道代、事務所の消耗品などが該当します。
仕訳例: 企業が製造過程で使用する工場の光熱費として、現金で400,000円を支払った場合の仕訳は、以下の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
経費 | 400,000 | 現金 | 400,000 |
4.製造間接費:間接的にかかる製造費用
「製造間接費」は製品製造に直接関係しない費用で、製造過程を支えるための間接的な費用です。例えば、工場の光熱費や設備の修理費、管理者の給与などがこれに含まれます。
仕訳例: 300,000円分の材料のうち、200,000円分を仕掛品に振り替え、100,000円分を製造にかかる間接費として振り替えた場合の仕訳は、以下の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
仕掛品 | 200,000 | 材料 | 300,000 |
製造間接費 | 100,000 |
5.仕掛品:製造中の未完成の製品
「仕掛品」とは、製造過程にあり、まだ完成していない製品のことです。製造途中で発生した原価(例えば、材料費、人件費、製造間接費など)は、「仕掛品勘定」に記録され、製品が完成した時点でこれらの原価は「製品勘定」に移されます。
仕訳例: 製造間接費500,000円を仕掛品に振り替える場合の仕訳は、以下の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
仕掛品 | 500,000 | 製造間接費 | 500,000 |
6.製品:完成した製品
「製品」は製造が完了し、販売可能な状態になった完成品を指します。仕掛品が完成し、出荷や販売に向けて準備が整った時点で、仕掛品から製品に移されます。
仕訳例:当月に完成した製品が700,000円であった場合、仕訳は以下の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
製品 | 700,000 | 仕掛品 | 700,000 |
7.月次損益:毎月の損益計算
「月次損益」は、1ヶ月ごとの損益を計算するための勘定科目です。月ごとに売上原価や利益を計算し、利益がどれだけ出たのかを把握します。
仕訳例: 当月の売上が1,000,000円、売上原価が800,000円の場合、月次損益勘定への振替仕訳は以下の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
売上 | 1,000,000 | 月次損益 | 1,000,000 |
月次損益 | 800,000 | 売上原価 | 800,000 |
まとめ
工業簿記では、特に理解が求められる重要な勘定科目がいくつかあります。主なものとして、「材料」「労務費」「経費」「製造間接費」「仕掛品」「製品」「月次損益」の7つが挙げられます。これらの科目は、製造過程で発生するコストや仕訳の流れを理解する上で非常に重要です。
これらをしっかり理解し、順を追って覚えることで、工業簿記の仕訳を効率的に学び、試験対策にも効果的です。特に、「材料 → 労務費 → 経費 → 製造間接費 → 仕掛品 → 製品 → 月次損益」という流れを意識して覚えることが、理解を深めるコツとなります。
また、日商簿記などの試験では、これらの勘定科目に関連した問題が頻出するため、基礎をしっかり固めておくことが合格への近道です。