工業簿記を学んでいると、「労務費」という勘定科目に出会います。商業簿記で学んだ「給料」は費用として扱われますが、工業簿記では「労務費」が製品のコストとして計上されるため、混乱することもあるかもしれません。
本記事では、労務費の仕訳について、初心者にも分かりやすく解説します。
労務費とは
労務費とは、製品を作るために消費された「人の労働」にかかるコストのことです。具体的には、以下の項目が含まれます。
- 賃金や給料:工場で働く従業員に支払う給料や賃金
- 従業員賞与:ボーナスやインセンティブ
- 法定福利費:社会保険料や厚生年金などの会社負担部分
- 退職給付引当金繰入額:工場の従業員に対する退職給付費用
工場などの製造業では、これらの費用が製品を作るために必要な労働力に対するコストとして計上されます。工業簿記における「労務費」は、これらの費用を一括して管理するための勘定科目となります。
商業簿記と工業簿記の労務費の違い
商業簿記と工業簿記では、労務費の取り扱い方に違いがあります。商業簿記では、費用が発生したタイミングを「期間」で考えるのに対して、工業簿記では「製品との対応」を重視して取り扱います。この違いについて詳しく見ていきましょう。
商業簿記では「期間」で考える
商業簿記では、賃金や給料が支払われた時点で、その費用を計上します。たとえば、月末に従業員に給料300,000円を現金で支払った場合、その支払い時点で費用として計上します。仕訳は次のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
給料 | 300,000 | 現金 | 300,000 |
このように、商業簿記では、給料の支払日が費用の発生日となり、その時点で費用として計上されます。
工業簿記では「製品との対応」で考える
工業簿記において、賃金や給料が支払われた際には、まずその支払いを「労務費」として計上します。その後、製品の製造に直接かかった分は「仕掛品」や「製品」に振り替えられ、間接的に関与する分は「製造間接費」に振り替えられます。
労務費は製品の製造に使用されるコストであり、最終的に完成品に振り替えられ、売上原価として費用に計上されます。このプロセスのポイントは、労務費が製品の製造に関連するコストとして最初に計上され、その後「仕掛品」や「製品」に関連づけられることです。
例えば、月末に工員に賃金300,000円を現金で支払った場合、支払時点で費用を計上します。仕訳は次のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
労務費 | 300,000 | 現金 | 300,000 |
その後、製品の製造が進んだ際に、直接的に製品の製造に使われた労務費は「仕掛品」や「製品」に振り替えられます。間接的に製造にかかわった労務費(例えば、工場管理者の賃金など)は「製造間接費」に振り替えられることがあります。
最終的には、製造された製品が売上として販売される際、これらの費用が「売上原価」として計上され、企業の利益計算に反映されます。
仕訳例
ここでは、労務費の具体的な仕訳をいくつかの例を使って解説します。
賃金の支払い
<例題>
工場の工員に対して400,000円の賃金を現金で支払った。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
労務費 | 400,000 | 現金 | 400,000 |
工場の工員は製品を作るために働いていますので、その労務費は「労務費」という勘定科目に計上されます。
直接労務費・間接労務費として消費
<例題>
労務費400,000円の内訳は、直接労務費300,000円、間接労務費10,000円であった。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
仕掛品 | 300,000 | 労務費 | 400,000 |
製造間接費 | 100,000 |
この場合、直接労務費は製品に直接関連するため「仕掛品」に振り替えます。一方、間接労務費は製品と直接関連しないため、「製造間接費」として処理されます。
このように、工業簿記では労務費を消費した内容に応じて、適切な勘定科目に振り替えることが重要です。
まとめ
労務費とは、製品を作るために使われた「人の労働」にかかる費用のことです。
商業簿記と工業簿記では、労務費をどのタイミングで費用に振り替えるかに違いがあります。商業簿記では支払った時点で費用として計上しますが、工業簿記では支払った時点では、まず「製造コスト」として計上され、その後製品に振り替えられます。
また、工業簿記では、直接労務費と間接労務費を区別して処理し、どの製品に対していくら使ったかをしっかり管理することが求められます。直接労務費は「仕掛品」に、間接労務費は「製造間接費」に振り替えられます。
このように、工業簿記では労務費が製品のコストとしてどのように使われていくのかをしっかり理解することが重要です。勘定科目の振り替えが多いため、仕訳の流れをしっかり覚えることで、工業簿記の理解が深まります。