簿記や会計において、「現金」という言葉は日常生活で使う意味と少し異なります。現金勘定に含まれるものは、単なる紙幣や硬貨にとどまらず、即座に換金できる「通貨代用証券」も含まれます。この違いを理解することは、簿記を学ぶ上で非常に重要です。
また、現金勘定の範囲を理解することで、仕訳問題や実際の取引処理をスムーズに行うための知識を深めることができます。
この記事では、「現金」と「通貨代用証券」の違いを明確にし、それぞれが簿記上でどのように扱われるかを解説します。
現金の範囲
簿記での「現金」の範囲は、日常的に使用される「現金」という言葉の意味とは異なります。簿記では、現金勘定に含まれるものは、通貨(硬貨・紙幣)だけでなく、通貨代用証券も含まれます。
通貨代用証券は、いずれも現金と同様に即座に換金できるため、簿記上では現金勘定として処理されます。したがって、簿記における現金の範囲は「現金 + 通貨代用証券」となります。
通貨代用証券
通貨代用証券は、金融機関などで容易に現金に換えることができるほか、他人に譲渡して支払手段として使用できる点が特徴です。
通貨代用証券には、以下のようなものがあります。
①他人振出の当座小切手
銀行に持参すると現金に換えることができます。
②利払日の到来した公社債の利札(クーポン)
金融機関に持参すると現金に換えることができます。
③配当金領収書
金融機関に持参すると現金に換えることができます。
④送金小切手
送金小切手とは、送金人が受取人に都合の良い銀行を店舗を支払い場所に指定し、送金額等を払い込んで発行されるものです。
送金人は送金小切手を受取人に送付し、受取人は送金小切手を支払場所に提示して現金を受け取ります。
⑤送金為替手形
送金為替手形とは、小切手ではなく、銀行を支払人として利用する為替手形です。
⑥郵便為替証書・振替貯金払出証書
郵便局に持参すると現金に換えることができます。
⑦預金小切手・預金手形
銀行が自店舗を支払人として振り出す自己宛小切手です。
⑧国庫補助金支払命令書
国庫補助金とは「国庫支出金」の一つで、特定の施策を奨励するため又は財政援助のために交付するお金です。
①~⑤はよく出題されるので覚えておきましょう。
通貨代用証券と混同しがちなもの
以下は通貨代用証券と混同しやすいものですが、これらは現金勘定としては扱いません。
①自己振出の当座小切手
→当座預金勘定
②はがき・切手
→通信費勘定
③収入印紙
→貯蔵品勘定または租税公課勘定
④電車・バスの回数券
→旅費交通費
⑤譲渡性預金の預金証書
→有価証券勘定
⑥先日付小切手
→受取手形勘定
先日付小切手は、将来の一定期日まで金融機関に提出できないため、現金勘定ではなく「受取手形」勘定として処理します。
現金と通貨代用証券の違い
「現金」と「通貨代用証券」は、簿記や会計においてしばしば混同されがちですが、実際には異なるものです。
1. 現金とは
現金は、企業が即座に支払いや取引に使用できる、物理的な形態の通貨(紙幣や硬貨)を指します。企業の資金繰りやキャッシュフローにおいて最も基本的な資産です。
2. 通貨代用証券とは
通貨代用証券は、現金に換えることができる証券ですが、現金そのものではありません。銀行や金融機関で現金に換える必要があります。例えば、他人振出の当座小切手や、利払日の到来した公社債の利札などがこれに該当します。
3. 主な違い
現金は物理的な形態(紙幣・硬貨)として存在し、直接取引に使用できます。通貨代用証券は即座に現金化可能ですが、現金化するまで取引には使用できません。ただし、どちらも流動性が高く、即座に換金できるという点では共通しています。
4. 現金勘定での扱い
簿記においては、現金と通貨代用証券の両方が現金勘定に含まれます。つまり、通貨代用証券も現金として扱われ、現金勘定に記入されます。
仕訳パターン
現金を受け取った場合は、資産が増加するため借方に記入します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
現金 | 100 | 売上 | 100 |
現金を支払った場合は、資産が減少するため貸方に記入します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
仕入 | 100 | 現金 | 100 |
練習問題
第1問
A社の金庫に入っているものを確認したところ、以下のものがあった。
現金100,000円、利払日の到来した公社債の利札500円、未使用の収入印紙100円、先日付小切手10,000円
【解答・解説】
現金100,500円、貯蔵品100円、受取手形10,000円
- 現金100,500円=現金100,000円+利払日の到来した公社債の利札500円
- 貯蔵品100円=未使用の収入印紙100円
- 受取手形10,000円=先日付小切手10,000円
第2問
20x1年3月31日にA社の金庫に入っているものを確認したところ、以下のものがあった。
A社が振出した小切手で金庫に保管してあったもの50,000円
郵便為替証書300円
配当金領収書500円
未使用の電車の回数券1,000円
収入印紙700円
Z株式会社から受け取った小切手20,000円(小切手の日付は20x1年4月5日)
【解答・解説】
当座預金50,000円、現金800円、貯蔵品1,700円、受取手形20,000円
- 当座預金50,000円=A社が振出した小切手で金庫に保管してあったもの50,000円
- 現金800円=郵便為替証書300円+配当金領収書500円
- 貯蔵品1,700円=未使用の電車の回数券1,000円+収入印紙700円
- 受取手形20,000円=Z株式会社から受け取った小切手20,000円(先日付小切手)
第3問
第3問
次の資料に基づき、決算日における現金の実際有高を求めなさい。
(資料)
決算日において金庫に保管されていたものは以下の通りです。
①紙幣・硬貨 83,550円
②他人振出当座小切手 700円
③先日付小切手 600円
④郵便切手 100円
⑤自己振出小切手 400円
⑥公社債利札(期限到来済み500円、期限到来前100円)
⑦収入印紙 1,000円
⑧未渡小切手 30,000円
⑨株主配当金領収証 2,000円
⑩国庫補助金支払命令書 5,000円
【解答・解説】
現金の実際有高157,250円
①紙幣・硬貨 83,550円
→ 現金勘定
②他人振出当座小切手 700円
→ 現金勘定
③先日付小切手 600円
→受取手形勘定
④郵便切手 100円
→貯蔵品勘定
⑤自己振出小切手 400円
→当座預金勘定
⑥公社債利札
(期限到来済み500円→現金勘定、期限到来前100円→処理不要)
⑦収入印紙 1,000円
→貯蔵品
⑧未渡小切手 30,000円
→当座預金勘定
⑨株主配当金領収証 2,000円
→現金勘定
⑩国庫補助金支払命令書 5,000円
→現金勘定
第4問
次の取引の仕訳を示しなさい。
①株主配当金領収証3,000円がA社から送付された。
②得意先であるA社に対する売掛金50,000円について、A社振出の小切手で回収した。
【解答・解説】
①
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
現金 | 3,000 | 受取配当金 | 3,000 |
②
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
現金 | 50,000 | 売掛金 | 50,000 |
まとめ
現金の範囲は、簿記において「現金」勘定に含まれるものとして、通貨(紙幣や硬貨)だけでなく、即座に現金化できる通貨代用証券も含まれます。通貨代用証券は、例えば当座小切手や郵便為替証書、配当金領収書などがあり、これらは現金と同様に扱われます。
しかし、自己振出の当座小切手や収入印紙、先日付小切手などは、現金勘定とは異なる勘定科目で処理する必要があります。通貨代用証券に該当するもの把握することで、現金の問題は簡単に解けるようになります。
- 通貨代用証券は「現金」勘定で処理する。
- 現金の範囲は、現金=通貨+通貨代用証券