フリーランスのライターやデザイナー、作曲家、講師などに報酬を支払う際には、「源泉徴収」が必要になるケースがあります。
この記事では、経理実務で押さえておくべき源泉徴収の基礎知識から、報酬支払い時の仕訳例(税抜・税込パターン)までをわかりやすく解説します。
関連原稿料・デザイン料・講演料を支払ったときの仕訳と勘定科目の選び方
源泉徴収が必要な報酬とは?
以下のような業務に対して、個人に報酬を支払う場合は、所得税および復興特別所得税の源泉徴収が必要です。
- 原稿料(ライター等)
- デザイン料
- 作曲料
- 講演料
- 指導料
※ 法人に対する支払いは、原則として源泉徴収不要です。「支払先が個人か法人か」を必ず確認しましょう。
使用する勘定科目
源泉徴収が必要な報酬を仕訳する際、以下のような勘定科目を使います。
- 支払手数料
- 支払報酬
- 外注費
※ 勘定科目の設定に法的な制約はありませんが、「支払報酬」など支出の実態に即した適切な科目を選定し、継続的に適用することが望まれます。
源泉徴収税率の計算ルール
所得税法第204条・205条等により、源泉徴収税率は以下の通り定められています。
| 1回あたりの支払金額 | 適用税率 |
|---|---|
| 100万円以下 | 10.21% |
| 100万円超 | 100万円以下の部分:10.21% 100万円超の部分:20.42% |
※ 平成25年より復興特別所得税が加算され、上記の税率が適用されています。
消費税を含む報酬の源泉徴収
▼原則
報酬に消費税が含まれている場合、税込金額全体が源泉徴収の対象です。
▼例外
請求書などで報酬額と消費税額が明確に区分されている場合には、税抜金額を源泉徴収の対象とすることが認められています。
参考:平成元年直法6-1、平成26年課法9-1改正
「1回あたりの支払金額」の考え方
源泉徴収の税率判定に使う「1回の支払金額」とは、1回の支払いで実際に支払う金額を指します。
具体例
講演料300万円を5回に分けて各回60万円ずつ支払う場合
- 各回の支払額が100万円以下 → 10.21%の税率が適用される
出典:所得税基本通達205-1
【仕訳例】源泉徴収が発生する報酬支払いの記帳方法
個人事業主やフリーランスに報酬を支払う際には、源泉徴収を行う必要があります。
このセクションでは、報酬が「税込」か「税抜」かによって異なる仕訳の方法を、具体例を交えてわかりやすく解説します。
税込パターン:消費税が明示されていない場合
請求書に消費税の内訳が記載されていない場合、税込金額全体が源泉徴収の対象となります。
例題1:原稿料 55万円(税込)を現金で支払った場合
- 支払先:個人ライター
- 報酬額:550,000円(税込)
- 源泉徴収税率:10.21%
計算:
源泉徴収額:550,000円 × 10.21% = 56,155円
実際の支払額:550,000円 − 56,155円 = 493,845円
▼仕訳
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 支払手数料 | 550,000 | 現金 | 493,845 |
| 預り金 | 56,155 |
例題2:講演料 275万円(税込)を小切手で支払った場合
- 支払先:著名人(個人)
- 報酬額:2,750,000円(税込)
- 源泉徴収税率:
└ 100万円以下部分:10.21%
└ 100万円超部分:20.42%
計算:
1,000,000円 × 10.21% = 102,100円
1,750,000円 × 20.42% = 357,350円
源泉徴収額の合計:459,450円
実際の支払額:2,750,000円 − 459,450円 = 2,290,550円
▼仕訳
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 支払手数料 | 2,750,000 | 当座預金 | 2,290,550 |
| 預り金 | 459,450 |
税込パターンのポイント
- 消費税額が明記されていない場合、税込金額全体を源泉徴収の対象とします。
- 源泉徴収した金額は「預り金」として記帳し、翌月10日までに納付が必要です。
- 支払金額が100万円を超えると、税率が段階的に変わります(10.21% → 20.42%)。
税抜パターン:消費税が明記されている場合
請求書に「報酬額」「消費税額」が明確に記載されている場合、税抜金額のみを源泉徴収の対象とすることができます。
例題3:原稿料 50万円(税抜)を現金で支払った場合
- 支払先:個人ライター
- 報酬額:500,000円(税抜)
- 消費税:10%(=50,000円)
- 源泉徴収税率:10.21%
計算:
源泉徴収額:500,000円 × 10.21% = 51,050円
実際の支払額:500,000円 + 50,000円 − 51,050円 = 498,950円
▼仕訳
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 支払手数料 | 500,000 | 現金 | 498,950 |
| 仮払消費税等 | 50,000 | 預り金 | 51,050 |
例題4:講演料 250万円(税抜)を小切手で支払った場合
- 支払先:著名人(個人)
- 報酬額:2,500,000円(税抜)
- 消費税:10%(=250,000円)
- 源泉徴収税率:
└ 100万円以下:10.21%
└ 100万円超:20.42%
計算:
1,000,000円 × 10.21% = 102,100円
1,500,000円 × 20.42% = 306,300円
源泉徴収額の合計:408,400円
実際の支払額:2,500,000円 + 250,000円 − 408,400円 = 2,341,600円
▼仕訳
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 支払手数料 | 2,500,000 | 当座預金 | 2,341,600 |
| 仮払消費税等 | 250,000 | 預り金 | 408,400 |
税抜パターンのポイント
-
- 請求書で報酬額と消費税額が明確に区分されていれば、税抜金額のみが源泉徴収の対象になります。
- 消費税は「仮払消費税等」として処理します。
- 源泉徴収額は「預り金」として計上し、翌月10日までに納付が必要です。
まとめ
- 源泉徴収の対象となる金額は、「税込」か「税抜」かで異なります。
- 請求書の内容(消費税内訳の有無)を確認して、正しい仕訳を行いましょう。
- 報酬額が100万円を超えると、源泉徴収税率が2段階に分かれて適用されるため、注意しましょう。
経理担当者は、請求書の記載内容・支払金額・支払先の属性(個人 or 法人)を正確に確認し、適切な処理を行うことが求められます。